先日購入したPC-9801FAの動作確認を行ったところ、一応正常に動作することが確認できました。ただし、外観は全体的にかなり黄ばんでおり、ジャンク品であるため汚れも目立ちます。内部の清掃は次回に回すとして、今回の記事は、この黄ばみを解消することをメインとしています。(実際には、レトロブライトと内部清掃は平行して実施しました)
PCやゲーム機など、古い電子機器の筐体に使われているABS樹脂が経年劣化によって黄ばんでしまう現象はよく知られています。特に、1980年代から1990年代にかけて製造された多くの機器に使われたABS樹脂は、紫外線や酸素にさらされることで表面が黄変してしまいます。この黄ばみを取り除く方法として知られているのが「Retr0bright(レトロブライト)」と呼ばれる手法です。Retro Brightではなく、Retroのオーが数字のゼロでbとの間に空白がありません。
レトロブライトは、過酸化水素水(H2O2)を利用して黄ばんだABS樹脂を元の色に戻す漂白方法です。この過酸化水素水は、家庭でも比較的手に入りやすいもので、薬局で「オキシドール」という名称で販売されているものが代表的です。ただし、薬局で販売されているものは濃度が低く、処理に時間がかかる上にコストも高くついてしまいます。
より手軽で安価な代替として、スーパーで販売されている酸素系の液体漂白剤が挙げられます。これらには過酸化水素水が含まれており、特にスーパーのプライベートブランド商品は安価で使いやすいものが多いです。過酸化水素水を使用したくて酸素系の液体漂白剤を挙げているので、塩素系の漂白剤や粉末の酸素系漂白剤はレトロブライト用としては不適です。
レトロブライトの手法はシンプルですが、いくつかのポイントがあります。まず、過酸化水素水を使ってABS樹脂を漂白するためには、樹脂表面に過酸化水素水を塗布するか、樹脂を過酸化水素水に浸します。その後、日光や紫外線ランプを使って紫外線を照射します。紫外線が過酸化水素水と反応し、黄ばみの原因となる臭素化合物を分解することで、樹脂本来の白さが戻るという仕組みです。
ただし、黄ばみがABS樹脂に含まれる臭素化合物によるものであれば効果がありますが、別の要因による場合は、この方法では改善されないこともあります。
均一な漂白を目指す場合、塗布した部分が乾かないようにラップを使用することが推奨されています。しかし、今回の実践では、このラップ法を採用した結果、一部で失敗が見られました。ラップ法よりもハケで漂白剤を塗布し、日光に当てるだけの方が良いかもしれません。また、漂白剤に浸す方法も有効ですが、紫外線が弱くなるため時間がかかる上、樹脂が劣化するリスクがあるようです。
紫外線の照射時間は、黄ばみの程度や環境条件によって異なりますが、一般的には数時間から数日かかることがあります。例えば、夏の日光であれば、表面に塗布して約8時間、浸す方法では夜間を除いて16時間以上かかります。鉄板に厚めに塗装されたPCの天板の場合は2〜3時間ほどが目安です。これは漂白剤を塗るだけで、日光に当てる必要はないかもしれません。

日本語の検索結果では、レトロブライトには「ワイドハイターEX」や「ワイドハイターPro」が定番として挙げられていますが、重要なのは過酸化水素が入っていることです。今回は、イオンのプライベートブランドの酸素系液体漂白剤を選びました。写真には2パックしか写っていませんが、実際には3本使用しました。

漂白剤は透明の大きなゴミ袋に入れ、ABS樹脂の表面にビニールが密着するように漬け込みました。これはラップ法の一種ですが、ラップがヨレて光の当たり具合にムラができ、失敗してしまいました。

キーボードのキートップは手で引き抜けますが、かなり力が必要で、スカート部分の端で指を傷めることがあります。そのため、専用のキートップ引き抜き工具を使うことをお勧めします。手で無理に引き抜くと斜めに力がかかり、キートップ裏の出っ張り(ステムに刺さる部分)が変形したり折れたりする恐れがあるため、工具でまっすぐ引き抜く方が安全です。

左端のShiftキーのような長いキーには、斜めに押されないようにスタビライザーのC型金具が付いています。キートップを少し持ち上げて裏返し、金具をスライドさせてキーボードのベースから取り外します。レトロブライトを行う前に金具を外す際、金具を留める爪を折らないように慎重に作業します。

中央のリターンキーにはスタビライザー金具が付いています。左Shiftキーと同様に、キートップを浅く引き抜き、左から右へ裏返すようにして金具を右にスライドさせて外します。この際、金具をキートップから取り外す(または取り付ける)時には、金具を留める爪を折れないよう注意します。

最下段のスペースキーは、最も長いキーです。このキーのスタビライザーはキーボードのベース内部に組み込まれているため、金具はありません。その代わりにバネが1本入っていますが、固定されていません。中央にステムと繋がる部分があるため、引き抜き工具を使い、まっすぐ上に引き抜くだけで外せます。
写真にはありませんが、左上のSTOPキーにもステムを囲むようにバネが入っています。しかし、引き抜き方は通常のキートップと同じです。このバネも固定されていないため、紛失しないように保管します。
今回は、取り外したキートップを透明の袋に入れ、漂白剤で漬け込む方法を試しましたが、これは失敗でした。漬け込むとキートップが下向きになりやすく、紫外線が当たりにくいため、日光が当たった部分と当たらない部分で色ムラが生じてしまったのです。粗めの網の上にキートップを上向きに並べ、ハケで漂白剤を塗る方法の方が良い結果が得られたはずです。
さらに、製造から30年を超える樹脂は脆くなっており、漂白剤に漬けると表面が溶け出しました。ステムに刺さる部分もわずかに溶けているようです。この点からも、網に並べてキートップだけに漂白剤を塗る方法が、より良い結果を得られたはずです。

今回試したのは「ラップ法」の亜種でしたが、ビニール袋の当たり具合によって漂白ムラが発生してしまいました。このムラが非常に厄介で、写真にあるキーボードの上カバーのテンキー下側部分では、白くなっていない箇所が漂白ヤケのように見えています。

PC-9801FA本体のフロントカバーにも、わずかではありますがムラが確認できました。

キーボードのテンキー右上にあるNECのロゴ部分もムラが目立ち、色が大きく抜けてしまいました。特にロゴなどの塗装部分は剥がれやすく、レトロブライトの大きな難点です。このため事前にロゴや文字の大きさを正確に測り写真に撮って画像化しておく必要があります。画像をデカールにして元の位置に貼ることで解決します。(後述)

PC-9801FA前面パネルでは、機種のロゴやLEDインジケータの下にある文字が一部剥がれました。前面パネル自体も色ムラが残っているため、追加でレトロブライトを施す必要がありますが、さらにロゴや文字が剥がれるリスクがあることは避けられません。

ビニール袋を使ったラップ法をやめ、今回はハケで漂白剤を直接塗布し、日光に当てる方法に切り替えました。漂白剤が乾くとムラが酷くなる可能性があるため、30分ごとにハケで漂白剤を上塗りしました。写真では、ハケや漂白剤を入れた容器の影がキーボードの上カバーや前面パネルにかかってしまっていますが、このような影ができないよう注意が必要です。この方法では紫外線がしっかりと当たり、8時間で十分な効果が得られました。ただし、ラップ法で発生したムラ(ヤケ?)は完全には消えませんでした。もしこれがヤケであれば、漂白を重ねても除去することは難しいでしょう。

キーボードのテンキー上のNECロゴ部分はほとんど色が抜けてしまいましたが色ムラは解消されました。

キーボード上カバーの左上にあるインジケーターのアイコンもすっかり色が抜けて消えかけています。

PC-9801FA本体の前面パネルでは、機種名ロゴがほぼ壊滅状態で、唯一「A」の文字だけが剥げずに残っていますが、その色は薄くなっています。さらに、中段左端にあるLEDインジケータ下の「POWER」「DISK」の文字は、塗料が完全に剥がれ落ちてしまいました。
フロントパネルは漂白で表面が傷んだようなのでサンドペーパーの#1200で軽めに削り表面を整えました。その際にロゴの残った部分も削り落としました。

色落ちや剥がれたロゴや文字を、今回はデカールで再現することにしました。使用するのは、プリンタで印刷できる透明タイプのデカールシールです。必要なサイズはハガキの1/3程度なので、エーワンのインクジェットプリンタ用デカールシール(ハガキサイズ)を購入しました。他社からはレーザープリンタ用も出ているようです。インクジェットプリンタを使用する際は、顔料インクを選びます。水溶性インクでは、デカールを水に漬けた際に滲んでしまうため、上手くいきません。
市販されているプリンタ印刷用デカールシールは、左右反転で印刷して、印刷後に糊フィルムを貼り、さらに水に漬けてから目的の場所に貼り付ける仕様です。しかし、糊フィルムの厚みが目立ち、「デカールを貼った感」が強く出てしまいます。また、貼り付け位置の調整が難しく、失敗しやすいのが難点です。
今回は、やなかデジタルファクトリーさんの「デカールを自作してみよう」で紹介されている方法を採用しました。

「印刷シート」には、デカールシールの一般的な反転印刷ではなく、正像で印刷を行い、印刷面にクリアのラッカースプレーを吹きかけました。クリア層が薄すぎると、水に漬けた際にデカールが砕けやすくなるため、適度な厚さに仕上げることが重要です。クリアが乾いたら、デザインナイフで切り分けますが、「印刷シート」の台紙が厚いためハサミを使う方が作業しやすいかもしれません。通常のデカールシールなら、文字や図形の際ぎりぎりで切り取りたくなるところですが、今回の方法はデカールの段差が目立たないため、余白を残して切り分けても問題ありません。ただし、大きなデカールを扱う場合、折れ曲がってひっついてぐちゃぐちゃになる可能性がある点には注意が必要です。PC-9801FAのロゴ程度のサイズであれば、少々不器用な方でも十分貼り付け可能です。

キーボード上カバーのテンキー付近にNECロゴを貼り付けます。写真は、まだ印刷シートを切り分けただけの状態です。

切り分けた印刷シートを水に浸し、引き上げたら縦にして水滴を払い、印刷面を上にして20秒待ちます。その間に、デカールを貼る部分にマークセッター(またはタミヤのデカール糊)を塗ります。少し多めに塗ることで位置調整が容易になりますが、多すぎると貼り付けた後にデカールがズレやすくなるため注意が必要です。マークセッターやデカール糊は接着剤の役割を果たすため、これなしでは乾いたときに剥がれてしまいます。
デカールを水に浸けて20秒経つと、台紙と印刷面が自然に分離し始めます。印刷面を指で少しスライドさせ、デカールの端を台紙の外に出したら、デカールを貼る場所に置いてデカールの端を押さえて台紙を引き抜きます。小さなデカールの場合、ピンセットで印刷部とクリア層の端をつまんで台紙から完全に剥がし、貼り付け位置に移動させても構いません。しかし、大きなデカールではこの方法を取ると折れ曲がってひっついてぐちゃぐちゃになり、回復が難しくなるでしょう。
写真では、マークセッターを塗布し、その上にデカールを配置し台紙を引き抜いた状態が写っています。左側が少しズレていますが、マークセッターの液体の上に浮いた状態なので、位置調整が可能です。ピンセットの先端ではなく、丸みを帯びた部分でそっと押して調整します。位置が決まったら、軽く押さえつつ、余分なマークセッターを周囲から拭き取ります。この際、デカールを変形させたり傷つけないよう注意が必要です。

PC-9801FAのフロントパネルに「DISK」と「POWER」の文字を貼り付けました。特に「POWER」のデカールはまだ少し浮いていますが、上から押さえつけてマークセッターを拭き取れば、右側の「DISK」と同じように綺麗に仕上がるでしょう。

今回使用したデカールの中でも、最も大きなものはPC-9801FAのロゴとその他の文字です。まず、マークセッターを多めに塗り、大まかな位置にデカールを載せます。次に、クリア層を軽く押さえながら、台紙を慎重に横に引き抜きます。大きなデカールは台紙を完全に剥がしてから目的の位置に移動させるのは難しいため、この方法が適しています。写真では端が少しよれていますが、軽微なヨレであれば修正が可能です。また、デカールが斜めになっている場合でも、たっぷりのマークセッターの上に浮かんでいるため、そっと動かして位置を調整することができます。そのため、特に大きなデカールには、マークセッターを多めに使うことが重要です。

マークセッターは、ただ拭き取っただけでは跡が残ります。さらに、乾燥するとデカール(実際にはラッカースプレーで作ったクリア層)が段差として目立つ可能性があります。そのため、アルカリ電解水を染み込ませた綿棒で、拭き取れる範囲でマークセッターの跡を優しくたたき洗いし、乾いた後に#1200以上の番手のサンドペーパーを使ってデカール部分を磨きます。特に、デカール周辺のクリア層を削り、その後フロントパネル全体に艶消しのクリアを吹きかけます。最後に再度#1200以上のサンドペーパーで表面を整えれば、段差はほとんど目立たなくなります。また、フロントパネルにクリア塗装を行うことで、レトロブライトで荒れてしまった表面が新しい樹脂のように見えるようになります。
ただし、元々PC-9801FAやキーボードの表面に施されていた梨地仕上げは、サンドペーパーによる研磨やクリア塗装で多くが失われる可能性があります。フロントパネルやキーボードの梨地は細かいため、目を凝らさなければ気づきにくいですが、PC-9801FAの天板に施された金属塗装は荒い梨地のため、サンドペーパーをかけると台無しになる可能性が高いです。そのため、天板にはサンドペーパーをかけない方が良いでしょう。

背面の金属パネルには左上に個体番号や認証番号が書かれたシールがあるため、漂白は行いませんでした。しかし、前オーナーがマジックで書いた印が気になったため、プラスチック消しゴムで擦りました。マジックの跡は綺麗に消え、元の印刷文字はそのまま残っています。背面パネルは金属にツルツルの塗装が施されているため、マジックを消すのに消しゴムが有効でした。

3.5インチフロッピードライブにはディスク挿入口にフタがあり、イジェクトボタンはスロットの下に位置しています。このフタとイジェクトボタンもフロントパネルと同様に黄ばみが見られたため、レトロブライト処理を施しました。ディスクのフタは中央部分と左右の端を指で押さえながら中央を手前に引いてたわませて外しますが、両端の棒に力を入れると簡単に折れる可能性があります。特に左端はバネがあり棒が長めなので注意が必要です。この「棒」というのは、ディスクスロットの蓋と一体でできている樹脂です。加えて、製造から30年以上経過しているため、樹脂が劣化して脆くなっている可能性もあります。
イジェクトボタンは、上面の奥側が金属部分に爪で固定されています。爪を少し持ち上げて外しますが、この部品は非常に細く薄く、折れやすいので慎重に作業する必要があります。さらに、古い樹脂部品はレトロブライト処理によって表面が溶け、強度が低下することがあります。そのため、特にレトロブライト後の取り付け時にはより一層の注意が必要です。

PC-9801はDOS世代のパソコンで、リセットボタンを多用します。正面に大きく目立つリセットボタンも、フロントパネルと同じく黄ばみが目立ちました。リセットボタンもレトロブライトで漂白したいところですが、これはマザーボードに直接取り付けられた部品のため、取り外しには全てを分解し、マザーボードにアクセスする必要があります。これは非常に面倒です。今回は内部清掃のために分解していたので、リセットスイッチも外すことができましたが、レトロブライトのためだけに全分解するのは避けたいところです。(内部清掃については次回)

レトロブライト作業が完了しました。フロントパネルは自分でも驚くほどきれいに仕上がり、天板も漂白したことで色の違和感はありません。
キーボードは、下カバーだけレトロブライトを行わなかったため、色合いが少し異なっています。逆に、上カバーは白くなりすぎてPC-9801FA本体のグレーがかった白色より大きく白寄りになっています。
また、キートップは漂白液の入った袋にデタラメにまとめて入れたことで向きの違いにより紫外線の浴び方が違う状態となり、レトロブライトによる漂白処理の結果がまちまちで、色の統一感がありません。特に灰色のキーは表面に多数の細かなひび割れが発生し、見た目が悪くなっています。今回の作業で、灰色のキートップが最も樹脂が溶けてしまいました。ひび割れと溶け出しから、キー表面に何らかのコーティングが施されていて、その下の樹脂が溶け出したのかもしれません。キーボードのキーのムラが酷くみっともないため後日、キートップを再度取り外し、1つ1つ丁寧にサンドペーパーをかけてから、網に並べてレトロブライトを再度実施したいと思います。

